この記事で伝えたいこと
- 海外からわざわざ探して問い合わせてくる相手には、そう判断した根拠がある。どこで見つけ、何が引っかかり、どういう探し方の中の一件なのか。この見立てが、最初に置く確率の根拠になる。
- 進捗ステータスは前にしか進まない。確率ステータスは上がりも下がりもする。見積提出後に反応が鈍くなった案件は、工程上は前進していても見込みは下がっている。
- 失注は最後に起きていない。「これは決まらないかもしれない」と感じた瞬間が、たいてい途中にある。その時点が記録されないから、失注の欄には終わったという事実しか残らない。
- 下がった理由は三軸で書く。いつ(どの段階で)、どちら側(自社の対応か相手の判断か)、何が(具体的な中身)。「こちら側」の選択肢が無ければ、記録は必ず相手側に寄る。
- 記録の基準は、集計できるかどうかではなく、来月から変えられるかどうか。そして項目は、決めるものではなく、入力する人と合意するもの。
なぜ、この会社は当社に問い合わせてきたのか
海外から問い合わせが届いたとき、最初に考えるのはこれです。
同じことができる会社は、世界にいくつもあります。日本の中だけでも複数ある。それでもこの相手は、検索して、比べて、言語の違う会社に文章を書いて、送信ボタンを押しました。その手間の分だけ、理由があります。
理由を三つに分けて読みます。
どこで見つけたか。自社サイトの検索経由なのか、社外の記事や評価を見たのか、自社で運営しているSNSからなのか。入口が違えば、相手がすでに持っている情報量も違います。
何が引っかかったか。クライアントの立場に立って考えます。サイトのどの記述に反応したのか。実績なのか、対応領域なのか、日本企業であること自体なのか。
どういう探し方の中の一件か。ニーズがニッチすぎて対応できる会社を探していたら偶然たどり着いた、という場合があります。日本企業で選定しようと絞り込んだ末に届いた場合もある。比較検討のために五社を選んだ、そのうちの一社かもしれません。
この三つで、同じ文面でも見え方が変わります。代替が少なくて探し当てられたのなら、相手は価格より可否を先に知りたいはずです。五社のうちの一社なら、期日と比較軸がすでに決まっています。
そして、ここが本題です。この見立てが、最初に置く確率の根拠になります。
初回の文面を読んだ時点で、確率を置いている
弊社では、問い合わせが届いた時点で、その案件が契約に至る確率をパーセントで暫定的に置いています。根拠は担当者の判断です。精密なものではありません。前の節の三つを読んだ上での見立て、と言ったほうが近いと思います。
置いたら、その確率を前提にして「では何をすればいいか」を想定してから、一次返信を書きます。そして初回の対応を終えた時点で、もう一度見ます。上がったのか。下がったのか。変わらなかったのか。
見ているのは工程の進捗ではありません。契約できるかどうか、という一点です。
進捗だけを見ていると、進んでいるのに決まらない案件が、表の上では順調に見えます。「見積提出中」と書かれた案件が10件あるとき、その中には決まりかけているものと、実質的にもう終わっているものが混ざっている。工程の名前を見ても、区別がつきません。
「失注」という欄が、一本しかなかった
支援先で、商談管理の項目を見せていただいたことがあります。
失注の欄は、一本でした。選択項目にすらなっておらず、自由記述です。書かれていたのは、たとえばこういう言葉でした。
連絡なし。価格、仕様が違う。そもそも社内で対応できる依頼ではなかった。
三つとも、まったく別の話です。一つ目は途中で会話が切れたということ。二つ目は条件が噛み合わなかったということ。三つ目は、そもそも受けるべき問い合わせではなかったということです。直すべき場所も、次に打つ手も、それぞれ違います。
それが同じ一本の欄に入っていました。この欄が記録しているのは、何が起きたかではなく、終わったという事実だけです。
進捗ステータスは、前にしか進まない
CRMやSFAが管理しているのは、基本的に工程です。問い合わせ、書類提出、検討中、見積提出、契約書ドラフト、契約書提出。順番に前へ進んでいきます。
この設計には、一つ抜けているものがあります。後ろに戻る動きが表現できない。
実際の商談では、進んだのに決まりにくくなる、ということが起きます。見積を出した。そこから反応が鈍くなった。工程としては前に進んでいますが、決まる見込みは下がっている。進捗ステータスは、この変化を記録できません。
両方を持つ、というのが現実的だと思います。工程は工程で必要ですし、確率だけでは何をすべきかが決まりません。
- 表すのは、どこまで進んだか
- 前にしか進まない
- 失注は、最後に一度だけ見える
- 生まれる打ち手は「次の工程を促す」
- 「見積提出中」の10件を、区別できない
- 表すのは、決まりそうかどうか
- 上がる。下がる。
- 下がった時点で、失注が見える
- 生まれる打ち手は「なぜ下がったのかを確かめる」
- 同じ工程にいる案件の、中身の違いが残る
失注は、最後に起きていない
商談を振り返ると、「これは決まらないかもしれない」と感じた瞬間が、たいてい途中にあります。返信の間隔が空いた。担当者以外の名前が出てこない。予算の話を避けられた。
その瞬間に、確率は下がっています。
ところが記録は、最後に一度だけ行われます。契約に至らなかったと確定した時点で失注の欄を開き、理由を書く。途中で下がったという事実は、そこで一本の言葉に畳み込まれます。
畳み込まれたものは、あとから展開できません。「連絡なし」と書かれた案件について、どの時点で連絡が細くなったのか、その直前にこちらが何を送ったのかを、半年後に思い出せる人はほとんどいないと思います。
記録すべきなのは、終わった時点ではなく、下がった時点です。そして下がった理由も、一つの欄に押し込むと同じことになります。三つに分けます。
| 軸 | 記録すること | 記入例 |
|---|---|---|
| いつ | どの段階で下がったか | 見積提出のあと |
| どちら側 | こちらの対応か、相手の判断か | こちら側 |
| 何が | 具体的な中身 | 他部署の確認に時間がかかり、回答が遅れた |
相手側の判断だった場合は、そこからもう一段だけ深く聞きます。価格なのか。品質なのか。要件そのものが噛み合わなかったのか。「金額が合わない」で止めると、次に出てくる打ち手は値引きしかありません。見積を出すのが遅かったのか、内訳を示さなかったのか、規模の想定がずれていたのか。そこまで書いて、ようやく次の案件が変わります。
ここで設計上の注意が一つあります。「こちら側」の選択肢を必ず用意しておくことです。
用意されていなければ、記録は必ず相手側に寄ります。入力する人は、社内でその案件について説明する立場にあります。説明できる形で書こうとするのは自然なことです。悪意ではありません。選択肢がそう作られているだけです。
失注の欄が一本しかない会社では、失注は最後に一度だけ起きます。実際には、その何週間も前に起きています。
確率は、当てるために置くのではない
暫定の確率を置くと申し上げると、精度を気にされることがあります。担当者の主観で置いた数字に意味があるのか、と。
当てる必要はないと考えています。置いた数字が動いたこと自体が情報だからです。60が40になった、という変化を捉えられれば足ります。60が正しかったかどうかは、あとから検証しようがありませんし、検証しても得るものは少ない。
もう一つ、これは運用の条件です。項目は、決めるものではなく、合意するものです。
失注理由の選択肢を管理側で作り込んでも、入力するのは現場です。取り決めて共有した上で作らなければ、書かれる言葉はまた説明のための言葉に戻ります。一人で作り直しても、うまくいきません。
記録の基準を一つだけ挙げるなら、集計できるかどうかではなく、来月から変えられるかどうかだと思います。「連絡なし」は来年も同じように書かれますが、「初回返信に9日かかった」は明日から変えられます。
失注理由の項目を作り直すときの順番
ここまでの話を、手順に直します。順番が大事です。項目から作ると、集計しやすい項目になります。先に決めるのは、何を見たいのかです。
- 問い合わせが届いたら、まず「なぜうちだったのか」を三つで読む(どこで見つけたか/何が引っかかったか/どういう探し方の中の一件か)
- その見立てをもとに、暫定の確率を置く。担当者の判断でよい
- 進捗ステータスを、実際の工程どおりに並べ直す。動いていない段階は削る
- 初回対応を終えた時点で、上がった・下がった・変わらないを記録する
- 下がった案件は、三軸(いつ・どちら側・何が)で残す
- 「こちら側」の選択肢を必ず作る。ここが空欄だと記録は相手側に寄り続ける
- 自由記述は一つだけ残す。ゼロにすると、収まらない事例が消える
- 入力する人と一緒に作る。作ったあと、過去の失注案件を数件、実際に入れてみる
- 四半期に一度、「どの段階で下がったか」の分布を見る
入口と出口は、同じ語彙でつながっている必要がある
最後の一項目が、この設計の目的です。理由の分布より、下がった段階の分布のほうが打ち手に直結します。初回対応の直後に集中しているなら、直すべきは一次返信のしかたです。見積提出のあとに集中しているなら、提案の中身か、その手前のヒアリングです。同じ「失注」でも、見る場所がまったく変わります。
問い合わせの入口で何を聞くかについては、別の記事で書きました。入口で取れなかった情報は、あとから取り直せません。今回はその反対側、届いたものをどう読み、終わったあとに何を残すかの話です。
入口で検討フェーズを聞いておきながら、出口の失注理由にその軸がなければ、集めた情報は照合されないまま終わります。
海外からの問い合わせに実際どう返すか——可否をいつ伝えるか、見積が出せないときに何を出すか——については、稿を改めて書きます。
Japan ConsultingはCRM・SFAの設計支援において、項目の並びから始めません。何を見て次の判断を変えたいのかを先に決め、そのためにどの時点で何を残すのかを定義します。記録は、失注したときに社内で説明するために書くものではありません。次の案件を変えるために書くものです。この一点が共有されていない限り、項目をいくら精緻にしても、入る言葉は変わりません。
この記事に関するFAQ
本記事は、筆者が中堅B2B企業に対して行ってきたCRM・SFAの設計支援、および自社での商談管理の運用実務をもとに構成しています。初回の問い合わせ文面を読んだ時点で成約確率を暫定で置き、初回対応を終えた時点で見直す運用は、筆者の自社実務によるものです。支援先で確認した失注欄の実態は抽象化しています。解釈・考察は筆者による。

