この記事で伝えたいこと
- CRMを入れてステータスが見えるようになるのは、確かに進歩だ。しかし、それだけでは大した売上は上がらない。
- うまくいっている会社は、ツールを入れる前からやることがあった。ステップメールも、ホワイトペーパーの追いかけも、すでに動いていた。CRMはその集約先として来ただけだ。
- 止まっている会社の担当者は、サボっていない。忙しいだけだ。CRMの活用は、放置しても今週の売上が落ちない仕事だから、後回しになる。
- 顧客を分けるとは、溜まったデータを後から分けることではない。問い合わせフォームで、最初に聞いておくことだ。
- 「溜まってからやること」と「1件目から決めておくこと」は違う。ここを混ぜると、100件溜まったときに使えないデータが100件できる。
導入から1年。データは溜まり、告知メールだけが出ていく
会社全体ではなく、事業部単位でHubSpotを導入する。これが一番多いパターンです。
導入から1年。初期設定のときに決めた項目に沿って、顧客情報は自動的に入ってきています。データは溜まっている。そして、たまに告知的な内容をメールで一斉配信する。それだけです。
担当者はいます。現場に近いマーケティング担当者です。優秀な人が多い。ただ、業務が忙しくて、全部は拾いきれない。だからHubSpotの機能のうち、動いているのは入口の部分だけになります。コンタクトフォーム。ニュースレターの連携。ポップアップのメルマガ登録。
そして、こう言われます。「顧客がある程度増えてから、本格的にやります」。
導入の入口は、いくつかあります。社長が数字を見える化したいと言い出すパターン。営業がどこからでも入力できる状態にしたいというパターン。マーケティング担当が業務改善や売上向上の施策として提案し、予算がついて実行されるパターン。
入口はどれでもいい。問題は、導入した後です。マーケティング担当が提案して予算を取った場合、導入後の運用は各事業部や予算の担当に任されます。そして、あまり気にされないまま進んでいく。提案した人にとっては、導入までが仕事だったからです。
担当者はサボっていない。忙しいだけだ
ここを誤解している経営者が多いので、先に書いておきます。
CRMが活用されていない会社の担当者は、サボっていません。忙しいのです。
そして、忙しい人が後回しにする仕事には、共通した特徴があります。やらなくても、今日は誰も困らない仕事です。
CRMの活用は、まさにそれです。放置しても、今週の売上は落ちません。データは勝手に溜まっていく。一斉配信は動いている。「顧客が増えてから本格的にやります」は、逃げではなく、合理的な優先順位の判断に見えてしまう。
だから止まります。誰も悪くないのに、止まる。
そして1年後、溜まったデータを開いて、こう気づきます。このデータは、使えない。
CRMの活用は、放置しても今週の売上が落ちない仕事だ。だから、優秀で忙しい人ほど後回しにする。
うまくいっている会社は、入れる前からやることがあった
同じHubSpotを入れて、機能している会社もあります。何が違うのか。
私が見てきた限り、答えははっきりしています。うまくいっている会社は、HubSpotを入れる前から、やることがありました。
すでにBenchmark やMailchimpでメールマーケティングをしていた。問い合わせがあったお客様に、ステップメールを送っていた。ホワイトペーパーをダウンロードした人を、テレアポやメール配信で追いかけていた。セミナーを開いて、参加者に営業していた。すでに動いている施策があって、その集約先としてHubSpotが来た。
一方、うまくいかない会社は逆です。CRMやSFA、MAツールの考え方も、基準も、ルールも無い状態で導入する。ツールが先に来て、やることを後から考える。
そして、ここで多くの会社が次の失敗をします。「じゃルールを作ろう」と言って、机の上でルールを作る。しかし、頭で作っただけのルールは、実体と合いません。現場の業務と嚙み合わない。だから現場は使いません。
ルールが無いから失敗するのではない。現場と合っていないルールを作るから、失敗するのです。
- 導入前から、すでに施策が動いている(ステップメール、ホワイトペーパーの追客、セミナー営業)
- Excelでの管理が限界に来ている
- メール配信先が、毎月数十件~数百件のペースで増えている
- CRMは、動いている施策の集約先として入る
- CRM・SFA・MAの考え方も基準もルールも無い状態で導入する
- 導入後に「どう使うか」を考え始める
- 机の上でルールを作るが、現場の業務と嚙み合わない
- 現場が使わない
- データだけが溜まっていく
見えるようになった。それでも売上は上がらない
CRMを入れると、今まで不明確だったステータスが見えるようになります。誰がどの案件を持っていて、今どの段階にあるのか。これは確かに進歩です。Excelで管理していた頃より、明らかに前に進んでいる。
ただ、それだけでは、大した売上は上がりません。
ここが、多くの記事が書かないところです。「CRMで可視化しましょう」で終わってしまう。可視化は手段であって、結果ではありません。
なぜ上がらないのか。ステータスが見えても、そのステータスに対して誰が何をするかが決まっていないからです。
「商談中」という札が付いている。それは分かった。では、その案件に対して、今週誰が何をするのか。そこが決まっていなければ、CRMは記録係が増えただけです。記録係は、売上を作りません。
そして、何のための営業進捗管理なのかを理解しないまま運用している人が、想像以上に多い。ステージは「今どこにいるか」を表す札ではありません。「次に何が起きれば、次へ進むのか」を定義したものです。
CRMを入れて、ステータスが見えるようになる。それは進歩です。しかし、見えるようになったステータスに対して、誰が何をするのかが決まっていなければ、記録係が増えただけです。記録係は売上を作りません。私たちが最初に確認するのは、ツールの設定ではなく、「見えた後に何をするか」が決まっているかどうかです。
分類とは、フォームの設計のことだ
では、溜まったデータから売上を作っている会社は、何をしているのか。
問い合わせてきたお客様を、分けています。そして分類ごとに、違うものを送っています。
ここで多くの人が誤解します。「溜まったデータを、後から分ければいい」と。それはできません。
分けるために必要な情報は、問い合わせが来た瞬間にしか手に入らないからです。その人がどの立場で、何に困っていて、いまどの段階にいるのか。3ヶ月後にメールを送る段になってから、遡って調べることはできません。
だから、分類とは、問い合わせフォームの設計のことです。
メールを送る前に、相手の情報を知っておかなければならない。だから、フォームの中で聞いておきます。業種・業界。部署名と役職。いま悩んでいること。当社に問い合わせた理由。何を改善したいのか。会社の規模と従業員数。導入時期。これらを選択式で答えてもらう。
自由記述だけにすると、集計できません。選択肢にすることで、初めて分類として機能します。
そして、この中で最も重要なのが「いまどの段階にいるか」です。
情報収集の段階にいるのか。比較検討の段階にいるのか。それとも、すでに導入していて、問題が起きていて、それを解決したいのか。この3つで、送るべきものが完全に変わります。
| 検討段階 | 相手の状態 | 送るもの |
|---|---|---|
| 情報収集 | まだ知識がない。何を知るべきかも分からない | 課題の構造を伝える。啓蒙的な内容から入る |
| 比較検討 | 選択肢を並べて、判断基準を探している | 判断しやすい材料を出す。比較の軸を示す |
| 導入後の課題 | すでに入れた。動かない。具体的に困っている | 導入ステップ、社内の改善事例。具体的な解決策 |
情報収集の段階にいる人に、いきなり導入事例を送っても刺さりません。その人はまだ、自分の課題を言葉にできていないからです。逆に、すでに導入して困っている人に啓蒙的な内容を送れば、時間の無駄だと判断されます。
同じ「問い合わせ」でも、必要なものはまったく違う。これを分けずに、全員に同じ告知メールを一斉配信しているのが、多くの会社の実態です。
そして、この分類はツールの機能ではありません。HubSpotが自動でやってくれることでもない。自社の顧客を、自社の言葉で分けるという設計作業です。
順序を逆にする。ツールは最後に決める
ここまでの話をまとめると、結論はひとつです。
溜まったデータを何に使うのかを決めてから、ツールの運用を考える。
多くの会社は逆をやっています。ツールを入れて、データを溜めて、それから使い道を考える。この順序では、使えないデータが溜まるだけです。何を記録すべきかを決めずに集めた情報は、後から使い物になりません。
順序を逆にします。
- 溜まったデータを、誰に、何を、どのタイミングで送るために使うのかを決める
- そのために、顧客をどう分類する必要があるかを定義する(最低でも「いまどの段階にいるか」は必須)
- その分類に必要な情報を、問い合わせフォームで選択式で聞く設計にする。後から遡って調べることはできない
- ここまで決めたうえで、検討中のツールのどの機能でそれが実現できるかを確認する。足りなければ、そこで初めてツールを再検討する
「溜まってから」でいいものと、1件目から要るもの
「顧客がある程度増えてからやります」という判断は、半分は正しいです。
プロモーション施策やセグメント別の配信は、件数が要ります。20件では意味がない施策もある。それが20件なのか、100件なのか、1000件なのかは、その会社の事業によって違います。溜まるのを待つ判断は、この領域では合理的です。
しかし、後回しにしてはいけない領域があります。
フォームの項目設計。顧客をどう分類するかの定義。入力のルール。これらは、1件目から必要です。
なぜか。後から決めても、過去のデータには適用できないからです。分類軸を決めずに100件集めたら、分類されていないデータが100件できるだけです。後から一件ずつ分類し直すことになります。
そして、そのための情報は、その時に聞いておかなければ、二度と手に入りません。問い合わせてきた瞬間、その人がどの段階にいたのか。何に困っていたのか。3ヶ月後には、本人ですら正確には答えられません。
「溜まってからやる」で間に合うものと、手遅れになるもの。この線を引いてください。
- セグメント別のプロモーション施策
- スコアリングの設計
- A/Bテスト
- 配信タイミングの最適化
- レポートの自動化
- 問い合わせフォームの項目設計(業種/部署・役職/課題/問い合わせ理由/会社規模/導入時期/検討段階)
- 顧客の分類軸の定義
- 誰がいつ入力するかのルール
- ステージの定義と、次へ進む条件
- ※後からでは二度と手に入らない情報がある
ツールの良し悪しは、使い道との距離で決まる
最後に、ツール選定について。
HubSpotにはWebページを作る機能もあります。ただ、制約があって、デザイン性の高いページは作れません。これを「機能が弱い」と評価するかどうかは、その会社次第です。
デザイン性の高いページが必要な会社にとっては、足りない。しかし、無料プランの範囲でページを作れれば十分という会社にとっては、これで足ります。
ツールの評価は、絶対値では決まりません。自社の使い道との距離で決まります。
だから、機能比較表をながめても答えは出ません。先に、自社が何をどう使うのかを定義する。そのうえで、それがそのツールのどの機能で実現できるのかを見る。この順序でしか、正しい選定はできません。
そして導入のきっかけとして、私が見てきた中で最も健全なのはこれです。Excelでの問い合わせ管理や売上管理が、もう限界に来ている。メール配信先が、毎月数十件から数百件のペースで増えている。
痛みが先にある。その痛みを解消するために、ツールが来る。この順序で入った会社は、たいてい機能しています。
Japan Consultingは、CRM・MAの導入支援において、ツールの設定から始めません。溜まったデータを誰に何のために使うのか、顧客をどう分類するのか、そのために問い合わせフォームで何を聞くのか。これを先に定義します。そのうえで、既存ツールの機能で足りるかを確認します。足りていれば、新しいツールは要りません。
この記事に関するFAQ
本記事は、筆者が中堅B2B企業に対して行ってきたCRM・MA導入支援、およびEC事業者を含む複数社での運用実務をもとに構成しています。特定企業の事例は抽象化しています。解釈・考察は筆者による。

