この記事で伝えたいこと
- 自動化は、決まっていないものを速く大量に作る装置だ。決まっていなければ、決まっていないものが大量にできる。
- 予算が先にあって、目的が後から探される。この順序で始まったものは、たいてい続かない。
- 世の中の自動化は「作る」と「集める」に偏っている。動くと見栄えがするからだ。
- B2Bで効くのは「分類する」と「調べる」。顧客は困りごとを毎日書いて送ってきているのに、誰もそれを分類していない。
- 最初に自動化すべきは、単純で、頻度が高く、間違えても被害が小さい業務。一番面倒な業務から手をつけると、たいてい失敗する。
「LinkedInの記事を自動生成したい」
この相談は、よく来ます。
技術的には難しくありません。設計はできます。文章も作れます。それでも私は、たいてい一度止めます。
話を聞いていくと、出てくるのはこういう理由だからです。国内の競合がやっている。東南アジアの現地企業もやっている。負けたくない。
そこで社内の話が通り、予算が決まり、プロジェクトが立ち上がる。ただ、LinkedInを使う理由そのものが、はっきりしていません。
「新規の取引先を増やしたい」。それは分かります。では、どんな相手と、どんな取引をしたいのか。日本でどんな顧客を獲得したいのか。ここを聞くと、答えが出てきません。
そして、もう一つ事情があります。部署単位で予算を取った以上、何らかの成果を示さなければならない。新しいコンテンツを作るのは難しい。ウェビナーもいずれやりたいが、今は準備ができていない。だから、まずアカウントを作って、記事をある程度出していく。
気持ちは分かります。私も同じ立場なら、そうしたと思います。
ただ、ここには順序の問題があります。予算が先にあって、目的が後から探されている。この順序で始まったものは、私が見てきた限り、たいてい続きません。
決まっていないのは、AIの使い方ではない
ここで多くの人が誤解します。「AIの使い方が分からないから、うまくいかない」と。
違います。決まっていないのは、AIの使い方ではありません。何のために発信するのかです。
自動化というのは、決まっている工程を、速く大量に回す装置です。決まっていない工程を自動化すると、決まっていないものが大量にできます。
しかも厄介なのは、作れてしまうことです。作れなければ、そこで立ち止まって考えます。ところが今は、テーマが曖昧でも、読み手が誰か決まっていなくても、記事は生成できてしまう。立ち止まる機会が消えました。
テーマが決まっていない状態で記事を100本生成すれば、テーマの無い記事が100本できます。誰に向けて書くのかが決まっていなければ、誰にも刺さらない記事が100本できます。そして、その100本は、あなたの会社の名前で公開されます。
B2Bにおいて、これは中立ではありません。マイナスです。買い手は「この会社は分かっているか」を見ています。中身の無い記事が100本並んでいることは、その問いに対する明確な回答になってしまいます。
自動化は、決まっていないものを、速く大量に作る。決まっていなければ、決まっていないものが大量にできるだけだ。
3ヶ月、伸びない。そこで折れる
仮に、記事を出し始めたとします。
最初の3ヶ月程度は、思ったほどアクセスが伸びません。これは正常です。認知が積み上がるまでには時間がかかる。数ヶ月から年単位の計画を立てて、実行し続けないと結果は出ません。
しかし、部署の予算で動いているプロジェクトは、3ヶ月で成果を問われます。そこで折れる。あるいは、方针が変わる。
だから、始める前に決めておくべきことがあります。何のためにやるのか。
「認知度を上げるため」というのは、目的として粗すぎます。具体的に、顧客に何をさせたいのか。
問い合わせをしてほしいのか。ホワイトペーパーをダウンロードしてほしいのか。メルマガに登録してほしいのか。それとも、ホームページへのアクセスを増やしたいだけなのか。
これによって、書くべき記事も、置くべき導線も、測るべき数字も、全部変わります。そして、これが決まっていなければ〃3ヶ月後に「うまくいっているか」を判断することすらできません。
広告も同じです。出せばいいというものではない。採算が合い、投資に見合う形で出す必要があります。そのためには、何を成果とするかが先に決まっていなければならない。
世の中の自動化は「作る」と「集める」に偏っている
n8nやMakeで、世の中の会社が何を自動化しているかを見ると、はっきりした偏りがあります。
ブログ記事の自動生成。SNS投稿の自動生成。LinkedIn投稿の自動作成。コールドメールの自動パーソナライズ。リード情報の自動収集。
要するに「作る」と「集める」です。
理由は分かります。動くと見栃えがするからです。人に見せられる。社内で報告できる。予算を取った説明がつく。
一方で、B2Bにおいて、この2つはどちらも効きにくい。
記事とSNSの大量生成が効くのは、BtoCのEC事業者です。理由は明確で、量を出す材料があるからです。新商品が出る。季節が変わる。同じ商品でも、見せ方を変えれば別の投稿になる。商品点数が多く、検索の入口が無数にあり、量がそのまま接点になる。この場合は有効です。
B2Bには、その材料がありません。新商品も、季節の切り替わりもない。無理に量を出そうとすると、同じことを言葉を変えて繰り返すことになります。そしてB2Bの買い手は、量では動きません。彼らが見ているのは「この会社は自分の課題を分かっているか」です。量産された記事は、その問いに対して逆の証明になります。
そして「集める」ほうも同じです。リード情報を自動で大量に集めても、そのリードに何を送るかが決まっていなければ、記事14で書いたとおり、使えないデータが溜まるだけです。
- ブログ記事の大量自動生成
- SNS・LinkedIn投稿の自動作成
- コールドメールの自動パーソナライズ
- リード情報の自動収集・スクレイピング
- デザインの自動生成
- ※動くと見栃えがする。だから最初に手がつく
- 問い合わせ・チャットログの分類とFAQ化
- 問い合わせからの改善ネタ・新サービスネタの抽出
- 競合リサーチ・業界リサーチの定型化
- 予算実績・数値シミュレーションの自動更新
- ※地味。見栃えがしない。だから誰もやらない
顧客は、困りごとを毎日書いて送ってきている
私が最も価値が高いと考えている自動化を、ひとつ挙げます。
問い合わせとチャットボットの応答ログを、分類することです。
コンタクトフォームやヘルプデスクには、毎日、顧客の言葉が届いています。何を知りたいのか。何に困っているのか。どこでつまずいているのか。顧客が、自分の困りごとを、自分の言葉で書いて送ってきている。
これ以上の一次情報が、どこにあるでしょうか。
ところが多くの会社は、これを返信して、閖じています。分類していない。集計していない。次の意思決定に使っていない。
やるべきことは、そう複雑ではありません。
問い合わせのログを、時系列で分類する。どういう時期に、どういう情報が求められているかを見る。そこからFAQを作る。同じ質問が繰り返されているなら、それはサイトの説明が足りていないということです。
そして、もう一段。その問い合わせを、「サービスの改善につながるもの」「売上向上のヒントになるもの」「新規サービスのネタになるもの」に挙り分ける。
これは、AIが得意な仕事です。大量のテキストを読み、分類し、傾向を出す。人がやると膞大な時間がかかるが、一件ごとの精度は必要ない。間違って分類されても、被害は小さい。
自動化の条件を、完璧に満たしています。
同じことが、経営企画の定型リサーチにも言えます。競合リサーチ、業界リサーチ、予算実績の突き合わせ、数値シミュレーション。頻度が高く、手順が決まっていて、間違えても致命傷にならない。そして経営企画は、たいてい人が足りていません。
Japan Consultingは、問い合わせ・チャットログの分類と、そこからのFAQ・改善ネタの抽出を支援しています。何を発信すべきか分からないという相談を受けたとき、私たちが最初に見るのは競合ではなく、その会社に届いている問い合わせです。顧客が何に困っているかは、顧客自身がすでに書いて送ってきています。
最初に自動化すべきは、地味な業務だ
多くの会社は、一番面倒な業務から自動化しようとします。そして、それが最も失敗します。
理由は単純です。面倒な業務は、たいてい例外処理が多い。例外が多い業務を自動化すると、例外に対応するための人手が、かえって増えます。自動化したのに、監視と手直しという新しい仕事が生まれる。
自動化すべきなのは、単純で、頻度が高く、間違えても被害が小さい業務です。
地味です。派手さがない。社内で報告しても「それだけですか」と言われる。だから誰もやりたがらない。しかし、そこからしか始まりません。
- 問い合わせ・チャットログの分類(何が繰り返し聴かれているかを、月次で出す)
- 分類したログからのFAQ生成(同じ質問が3回来たら、サイトに書く)
- 問い合わせからの改善ネタ・新サービスネタの抽出と挙り分け
- 競合・業界リサーチの定型化(毎月同じ項目を、同じ形式で集める)
- 予算実績・数値シミュレーションの自動更新(経営会議の資料を、手作業で作らない)
自動化した業務は、止まっても静かだ
最後に、自動化を進めるうえで、必ず設計しておくべきことを書きます。
自動化した業務は、止まっても静かです。
人がやっている業務なら、止まれば誰かが気づきます。担当者が休めば、仕事が溜まる。誰かが困る。しかし自動化した業務は、エラーも出さずに、何もしなくなることがあります。そして「動いているはず」という前提だけが残ります。
当社でも、これで失敗しました。自社サイトで、ある処理が1ヶ月以上にわたって完全に停止していたのに、誰も気づきませんでした。記録には「確認済み」と残っていました。エラーは一件も出ていません。静かに、何もしていなかっただけです。
自動化とは、作業を減らすことではありません。作業を減らす代わりに、「動いているかを見る」という新しい仕事を引き受けることです。
だから、自動化するときは必ずセットで決めてください。誰が、どのくらいの頻度で、何を見て、動いていることを確認するのか。
そして、その確認は「報告を読むこと」ではありません。実際に出力を見ることです。
どういう発信者になるのかを、先に決める
冠頭の相談に戻ります。
発信者になることは決まっている。しかし、どういう発信者になるのかが決まっていない。
どういう世界観を持って、顧客に対して何をしたいのか。ここが決まっていないまま、最初からいろいろなことをやろうとすると、うまくいきません。そして自動化は、その「決まっていない状態」を高速化するだけです。
もう一つ、繰り返しておきたいことがあります。予算が先にあって、目的が後から探される。この順序で始まったものは、続きません。予算を取ったから何かしなければならない。だから、作れるものを作る。自動化は、その「何かしなければならない」に、完璧に応えてしまいます。
だから順序はこうなります。
何のために発信するのかを決める。顧客に何をさせたいのかを決める。誰に向けて書くのかを決める。そこまで決まって初めて、どの工程を自動化してよいかが分かります。
決まっている工程は、自動化してよい。決まっていない工程を自動化してはいけない。
これだけです。
Japan Consultingは、AI内製化の支援において、まず「何が決まっていて、何が決まっていないか」を切り分けます。決まっている工程は自動化してよい。決まっていない工程を自動化すると、判断の不在が量産されます。ツールの設定は、その後です。
この記事に関するFAQ
本記事は、筆者が中堅B2B企業に対して行ってきたAI活用・業務自動化の支援、および自社での n8n・Make・生成AI の運用実務をもとに構成しています。自社サイトで発生した自動化停止の事例は、2026年7月に確認したものです。特定企業の事例は抽象化しています。解釈・考察は筆者による。

