この記事で伝えたいこと
- 外注は、コストだけでなくスピードと判断の主導権も、外部に委ねる選択になりやすい。
- 新規事業では、この2つが成果に直結する。返事を待つ時間が、見えにくい形で成長率を削る。
- 考えるべきは「外注か内製か」ではなく、「判断の主導権(コントロール)が社内に残っているか」。
- AIは人手不足とスピードを同時に補う“第三の道”になりうる。ただし要点は、ツールよりも“任せ方の設計”にある。
外部依存を見直す動きは、すでに始まっている
海外の調査を見ていると、マーケティングの“外部依存”を見直す動きが、はっきりと表れ始めています。ガートナーの2025年CMO調査では、回答した経営層の39%が代理店向けの予算を減らす計画だと答え、22%は生成AIによって創造・戦略面で外部代理店への依存を減らせたと回答しています。マーケティング予算に占める代理店の割合も20.7%まで下がりました。
この数字は、単なるコスト削減の話には見えません。AIが使えるようになったことで、これまで当然のように外に出していた仕事を“自分たちの手元に戻す”判断が、現実的な選択肢になってきた——そう読むほうが自然だと思います。
私はこの15年、海外マーケティングを外注する側でも、受託する側でも仕事をしてきました。その両方から見ると、この変化の本質は、コストよりも“スピード”と“判断の主導権が誰の手にあるか”にあるように感じています。今回は、その話をします。
「安い外注先が見つからない、社内にも人がいない」
海外展開を始めようとする中堅企業の多くが、似た場所で立ち止まります。大きな予算はかけられない。だから、安く請けてくれる外注先を探す。ところが、安くて信頼できる相手は、思うように見つからない。といって、社内にその仕事を担える人もいない。
これは、誰かの判断ミスではありません。海外B2Bのように専門性が要る領域では、よくある行き詰まりです。問題は、この状態のまま「とりあえず外注」を選んだあと、何が起きるかです。
外注で外に出ていく、2つのもの
外注の本当のコストは、請求書の金額ではありません。見えにくい2つのものが、外に出ていきます。
(1) スピード
外注に依頼すると、こちらの事業のスピードは、外注先のスピードに合わせることになります。修正のたびに往復が生まれ、相手の繁忙期には待たされる。コストを十分にかけられるなら優先してもらえますが、安く進めたい前提では、優先順位は下がりがちです。新規事業は、競合より速く学び、速く直すことが命です。その心臓部を、他社のスケジュールに預けてしまう。
(2) コントロール
もう一つは、判断の主導権です。外注に任せきると、“なぜそうするのか”の判断基準も、蓄積されたデータも、運用のノウハウも、外注先の側に残ります。社内には成果物だけが届き、判断する力が育たない。やがて「言われるがまま、流されるがまま」になり、自社の事業なのに、自社で舵を切れなくなる。
外注そのものは、悪ではありません。危ういのは、“コントロールを手放したまま”任せることです。
問うべきは「外注か、内製か」ではない
内製化と聞くと、「では全部、社内でやるのか」と身構えるかもしれません。けれど、二者択一で考えると、たいてい失敗します。全部を外に出せばコントロールを失い、全部を中に抱えれば、人材不足のなかで現場が回らなくなる。
問うべきは、もっとシンプルです。
判断基準・品質基準・データという“コントロール”が、社内に残っているか。
コントロールさえ社内にあれば、手を動かすのは外注でもAIでも構いません。むしろ両方を“手足”として使えます。逆に、コントロールを持たなければ、外注に流され、AIを入れても同じように流されます。道具の問題ではなく、舵を誰が握るかの問題です。
外注やAIを使うこと自体は問題ではありません。問題は、判断基準・品質基準・データまで外に出してしまうことです。手を動かす主体は外部でもAIでもよい。けれど、何を良しとするかを決める基準だけは、社内に残す必要があります。
翻訳という仕事で、私が見た17年の変化
抽象論だけでは伝わらないので、私自身がいちばん長く外注してきた“多言語翻訳”を例に話します。海外マーケティングでは、翻訳は避けて通れません。この17年、依頼先は次のように移ってきました。
はじめは、翻訳会社に頼むしかありませんでした。品質は安定していますが、単価は高く、納期もこちらの都合では動きません。次に、Gengoのような翻訳者が登録する明朗会計のポータルや、Upworkのようなマーケットプレイスで、経験豊富でスキルの高いフリーランスに直接頼むようになりました。安くはなりましたが、スキルに当たり外れがあり、当たりの人を探し、関係を築き、品質を見極める“管理の手間”が、こちらに重くのしかかりました。
そこへDeepLのような自動翻訳が現れ、さらにChatGPT・Gemini・Claudeが急速に進化しました。そして、ある時点で、静かに順序が入れ替わりました。
通常の企業が公開する文章なら、いまやAIの翻訳のほうが、速く、安定して、十分に高品質です。
ただし、これを「翻訳はもう人がいらない」と読むのは誤りです。私の実感では、人に残る領域ははっきりあります。医学・化学・工業のように、誤りが許されない専門用語の領域。官公庁や業界団体が定める、決まった表現に従わなければならない文書。同時通訳のように、リアルタイム性が必須の場面。そして、ごく一握りの卓越した翻訳者にしか出せない、文化やニュアンスの機微。これらは今も、人の仕事です。
つまり、大半の実務翻訳ではAIが人を上回り、一部の高度な領域は人に残った。だとすれば、いま本当に必要なのは「翻訳を外注するか、内製するか」という問いではありません。
どこをAIに任せ、どこを人に託すか。その“線引き”そのものが、新しい仕事になったのです。
AIという“第三の道” ── ただし主役はツールではない
翻訳で起きたことは、いま多くの業務で同時に起きています。かつて内製化には専任チームが要り、人材の薄い中堅企業には非現実的でした。けれどいま、生成AIが下書き・調査・翻訳・分析といった作業を担えるようになり、“少人数でも回せる”現実味が出てきました。
これは、はじめに挙げた“二重の矛盾”――安い外注がない、社内に人もいない――を解く第三の道になりえます。人材が潤沢でなくても、型(フレームワーク)があれば、社内で回せる。
ただし、ここで多くの会社がつまずきます。AIを“導入”しただけでは、成果は出ません。鍵は、翻訳の例と同じく、どの作業をAIに任せ、どの判断を人が握るかという“任せ方の設計”にあります。
AIを入れるだけでは、外注先がAIに置き換わるだけです。どの作業をAIに任せ、どの判断を人が握るのか。その線引きがあってはじめて、AIは社内の判断を支える手足になります。
「誰が引き受けるか」という問題
もう一つ、見落とされがちな点があります。海外展開が失敗するとき、その担当はしばしば“なんとなく任された人”です。実力を見込まれた抜擢ではなく、「やらなければならないから」始まる。だから熱量も判断基準も定まらないまま、外注に丸投げし、結果は外注先の責任になっていく。
社内で大きな事業を育てるなら、逆向きの設計が要ります。責任者が舵を握り、AIを型として使って、自分たちで回す。主体(誰が握るか)と、フレームワーク(どう回すか)を、セットで持つことです。
私たち自身も、外注していました
これは机上の理屈ではありません。私たち自身も、かつては翻訳もデザインもSEOも外注していました。便利でしたが、気づけば判断もデータも社外にあり、直したいときに、自分たちの速さで直せませんでした。
だから今は、コントロールを社内に戻し、AIを“任せ方の設計”で使う形に変えました。このサイトも、その運用の延長でつくっています。うまくいったことも、試行錯誤もあります。それを“分かち合う”のが、この発信の趣旨です。
外部パートナーを使う場合でも、直したいときに自分たちで判断し、修正できる状態を持つことが重要です。内製化とは、すべてを社内で抱えることではなく、事業の舵を自分たちの手に戻すことです。
まとめ ── 速さと舵を、自分の手に
もし、いま外注先の返事を待ちながら事業が止まっている感覚があるなら、それはコストの問題ではなく、スピードとコントロールの問題かもしれません。まずは“どの判断を社内に残すか”を一つ決めることから始められます。
次の一歩
自社の海外マーケティングが、いまどこまで“社内で自走できる状態”にあるか——5分の診断で、現在地と、優先して整えるべき領域を整理できます。
この記事に関するFAQ
出典:Gartner 2025 CMO Spend Survey(代理店予算削減計画39%/生成AIで代理店依存減22%/代理店シェア20.7%)。本文中のデータは同調査の公表値を参照。

